35歳、独身、彼氏なし。職場と家を往復する日々。
休日は誰とも会わず、Netflixを流しっぱなしにしてソファで過ごす。
一見、平和そうだが、心の奥ではずっと「これでいいのか？」という焦りと不安がくすぶっていた。
友達の結婚式の写真、ママ友との楽しそうなランチ、家族旅行――
SNSに並ぶ幸せな画像を見ては、いいねボタンを押しながら、スマホをそっと伏せる。
「今さら何かを始めるには遅すぎるけど、このまま何も起きないのも怖い」
そんなある日、仕事の昼休みに何気なく「占い 恋愛 当たる」と検索していた。
占いなんて信じていなかった。でも、正直なところ、誰かに「この先、あなたは大丈夫」と言ってほしかったのだ。
ヒットした中に、「ココナラ」というサービスがあった。
アプリを開いてみると、手軽に占い師とやりとりができるという。口コミも豊富で、「当たった！」「怖いくらい言い当てられた」などの声が並ぶ。
ふと目に留まったのは、「未来透視・霊感タロット」という40代女性の占い師だった。
プロフィール写真にはやさしげな笑顔。「表面ではなく“心の本音”を透かして見ます」と書かれている。
気づけば、購入ボタンを押していた。
やりとりはテキスト。まずは自分の生年月日と相談内容を送る。
文章にするのは意外と難しかった。
恋愛、結婚、仕事…どれも漠然と悩んでいる。けれど一言でまとめるとこうだった。
「今の自分はこのままでいいのか、それとも何かを変えるべきなのかを知りたいです」
数時間後、占い師から返事が届いた。
丁寧な文章。まずは生年月日をもとに、性格傾向を読み解いてくれていた。
「あなたは“空気を読みすぎる人”。周りからどう思われるかを常に気にしてしまう。だから、自分の本音を後回しにしてきたのでは？」
……図星だった。
誰かに合わせるのがうまいと言われてきた。でも、それは本当の自分を隠すクセでもあった。
職場でもそう。飲み会の席では笑って話を合わせる。でも、本当は心から楽しんだことなんてなかった。
「今のあなたは“変わりたいけど、怖い”というエネルギーに満ちています。頭ではわかっているけど、動けない。でもそれは、失敗を恐れているからです」
またしても図星だった。
転職したいと思ったこともあった。結婚相談所に入ろうとしたこともあった。でも「どうせうまくいかない」と自分でブレーキをかけてきた。
「恋愛についても見ました。あなたには、過去に“一度だけ、深く心を開いた相手”がいたのでは？」
…心臓が少し跳ねた。
大学時代、付き合っていた人がいた。彼だけには素の自分を出せた。でも、彼は地方に就職が決まり、遠距離の末に自然消滅した。
以来、誰とも深く関われなくなった。
「その人との別れを“失恋”として処理せず、“私には価値がない”と無意識に結びつけてしまった。そのブロックが、今も恋愛を遠ざけています」
静かに涙がこぼれた。
なぜ泣いているのか、自分でもわからなかった。でも、ずっと心の奥に閉じ込めていたものが、言葉になった気がした。
最後に、こんな言葉で締めくくられていた。
「運命を変えるのは、“思考”よりも“行動”です。ほんの小さな一歩でも、動けば必ず未来は変わります。今のあなたは、十分にその準備ができていますよ」
私はスマホを握りしめて、深く息を吐いた。
言われたことはどれも、どこかでわかっていた。だけど、自分で自分に言えなかった言葉だった。
誰かに言ってもらうことで、ようやく心が動き出す気がした。
その夜、私はずっとログインしていなかった婚活アプリを再インストールした。
まだ怖かった。でも、動いてみようと思えた。
婚活アプリを再インストールしたのは、正直、思いつきだった。
プロフィール写真は数年前に撮ったもので、自己紹介文も適当だったけれど、それでも誰かと繋がろうとする自分の行動に、どこかで胸を張っている気持ちがあった。
「やっと、ほんの一歩でも進んだんだ」と思えた。
数日後、一人の男性から「いいね」が届いた。
歳は二つ上で、同じく独身。プロフィールには「最近、将来について真剣に考えるようになりました」と書かれていた。
やりとりは穏やかで、押しつけがましくもなく、でもどこか人柄のやさしさがにじんでいた。
初対面の人と話すのは、久しぶりだった。最初は言葉を選びすぎて、返信に時間がかかった。
でも、「緊張してます」と正直に言ってみたら、「僕もです」と笑顔のスタンプが返ってきた。
一週間ほどやりとりしたあと、食事に行くことになった。
待ち合わせの時間よりも20分早く着いた私は、駅のベンチで深呼吸を繰り返した。
「行かない方が楽だったかな」と思いかけたとき、スマホの通知音が鳴った。
「こんにちは！もうすぐ着きますね。楽しみにしてます」
その短いメッセージに、少しだけ肩の力が抜けた。
彼の名前は広瀬さん。
第一印象は「落ち着いた人」だった。会話のテンポも合ったし、無理に話題を探さなくても、自然と次の話題が出てきた。
映画の話、職場の話、家族の話――
気づけば2時間があっという間に過ぎていた。
「また会いませんか？」と言われたとき、私は戸惑いながらも「はい」と答えていた。
帰宅後、ふと思い出したのが、あの占い師の言葉だった。
「あなたは、過去の傷を『私には価値がない』という結論にしてしまった。それを、これから少しずつ書き換えていけますよ」
広瀬さんといるとき、自分を必要以上に飾ろうとしなかった。
それが不思議だった。いつもなら「嫌われないように」と意識していたはずなのに、今回は違った。
多分、自分が自分に対して「それでいいよ」と言えたからだ。
あの占いのやりとりが、少しずつ心の底に積もって、私の考え方を変えていた。
それから数ヶ月、広瀬さんとは定期的に会っていた。
特別なイベントをしたわけじゃない。ただ一緒にご飯を食べて、たまに映画を観て、帰り道を一緒に歩くだけ。
でも、その「普通」が、心からありがたかった。
そんなある日、ふとしたことで彼と少しギクシャクした。
理由は些細なすれ違い。でも、昔の私なら「もういいや」と心を閉ざしていたかもしれない。
だけど、そのときは違った。
思い切って、自分の思っていることをちゃんと伝えてみた。
「実は私、人に本音を言うのがすごく苦手で。でも、あなたといると少しずつ言えるようになってきたんです」
彼は黙って聞いてくれたあと、ぽつりと言った。
「俺も、本当は不器用なんですよ。でも、あなたのペースに救われてるなって思ってました」
その瞬間、自分の心が溶けていく音がした気がした。
ある夜、ふとスマホのメモアプリを開いてみた。
そこには、占い師とのやりとりの一部がスクショとして保存されていた。
「運命を変えるのは、“思考”よりも“行動”です」
その言葉に、また静かに頷いた。
占いにすがったあの日、自分の中に「希望」という言葉が欠けていた。
けれど今の私は、「自分次第で何かが変わる」と信じることができている。
占いは、未来を当てるものじゃない。
「自分の中にある声」を代弁してもらうことで、前に進む勇気をもらうものだったんだ――今ならそう思える。
その年の秋。
紅葉のきれいな公園で、私は広瀬さんと並んでベンチに座っていた。
「今日ね、ココナラの占いで人生変わったかもって話を、初めて誰かに話そうかなと思って」
そう言った私に、彼は「聞かせて」と言って笑った。
それだけのことが、とても愛しかった。
ココナラは1分100円から占って貰えるのと、色んな方が在籍しているので選び放題です。私自身もヘビーユーザーで、特にタロット占いが好きで毎回相談しています。下のバーナーから新規の方限定で、3000円分の無料電話ができるので是非試してみてね。
